今、私の上腕二頭筋と背筋と首は、激しく筋肉痛である。
そして背後では、コップの牛乳を飲み干した幼児がナゾの合い言葉を叫んでいる。
「どりんかーっぷッ!!!」
ものすごい笑顔。知らない人が見たらちょっと引く勢い。
私も負けじと振り返りざま叫びます。
「ど、どりんかーっぷッ……!!」(痛む首)
どりんかっぷ。それは今、わが家でいちばんトレンディな言葉。
時間を3日前に戻そう。
私はリビングで新聞を広げ、雑誌広告の「さよなら冬太り」の見出しを眺めていました。
ここ数年、運動不足がたたって体脂肪率がすごい。
太ももを指で押してみると、もはや底なし沼。映画『ネバーエンディングストーリー』でアトレーユの愛馬アルタクスが「悲しみの沼」に沈むあの名シーンが胸に蘇るほどです。
そのとなりで、わが家のミルティンくんことS志は、パソコンを熱心に眺めていました。ご存じ超早朝子ども番組「ミルクチャポン」のダイジェスト映像をチェックしていたのです。
あっ。
いいこと、思いつきました。
「S志、ミルクジムっていうの、やってみようか」
「UP! UP! MILKGYM」は、11月からサイトで公開されているミルチャポオリジナル体操です。
子ども番組の体操といえば、実際はおもしろポーズを組み合わせた「おゆうぎ」型が多いもの。しかし、ミルクジムは当初チラ見した時点で「これはキツいっすわ!」と衝撃を受けました。以降見て見ぬふりをしていたのであった(すみません)。
そんな後ろ向きさが、この脂肪の原因なのだ。
私はリビングを片づけ、ミルクジムのアイコンをクリックしてみたのでした。
【1日目】
ミルクジムのページを開くと、「通常バージョン」「スペシャルバージョン」「練習バージョン」の3パターンの映像があります。
まずは「通常バージョン」から見てみよう。クリック。
「ウェルカーム!!」
「イエーイ! ご存じこのマサと〜ムキムキ楽しんでやってみようよおー!」
この「マサ」なる人物がトレーナーなのね。
ウオーミングアップ、足腰を丈夫にする運動、体を伸ばす運動、腹筋に効く運動、最後に全身運動と続きます。BGMはマサによるリズミカルなラップ。筋トレとダンスの最強タッグで攻めるハイブリッドエクササイズのようですね。
やってみると、ウオーミングアップですでに腕がボキボキ言い出した。
足腰を丈夫にする運動で、今度は軽く目まいがしてきた。ハアハア。私だいじょうぶか。
隣のS志はノリノリである。
「そうさガマンガマン、人生にはガマンも必要ダア!」
「いいじゃない、楽しそうダヨ〜!」
くじけそうな私を意に介さず、どんどん励ましてくるマサ。
マサの後ろでキレよく弾む子どもたち。
そして、「ママ、そうじゃないよ、こうっ」と熱血指導を入れてくるS志。
うう。
しょっぱなからしんどい「フットアップ フミフミ」
終盤から畳みかける「テクテク ランランラ〜ン」
ドカーン!
最後のポーズはもはやヤケクソ。
なぜかS志は、あわてて冷蔵庫へと駆けだしました。
そう、ミルクジムは、牛乳を飲み干したマサのこんなかけ声で終わるのです。
「DRINK UP!!!」
うう、まぶしい。
私は敗北感とともにうなだれたのでした。
【2日目】
夕ごはんのあと、すかさずS志が「あっぷあっぷやろうよ」と誘ってきました。
一旦ランクを落として、練習バージョンで動きをマスターすることに。
練習バージョンは、アドバイスとともに、子どもたちが一緒に練習してくれます。
私がどんなに間違えても、マサ弟子たちは見守ってくれている(気がする)。
はるか高みにいるにも関わらず、おごることなく導いてくれる彼ら。見ているうちに、本気には本気で応えねば、というやる気がわき起こってきました。
そういえば、最近ジムに通って7キロ痩せた先輩が、「運動を続けるコツは、引っぱってくれる誰かと一緒にやること」と言っていました。彼女はジムのトレーナーさんの存在が大きかったとか。「喜ばせたい」「ついていきたい」などの相手への気持ちが、継続につながるんだそう。
子どもと一緒にできるミルクジムも、同じような効果があるのかもしれないな。
子どもらの元気に引っぱられ、この日は練習バージョン3セットクリア。
【3日目】
「通常バージョン」リベンジです。
ラストの「DRINK UP!」をマサと一緒にキメるべく、牛乳をしっかりスタンバイ。
「ママ、やるよ」
「よし、今日は間違えないよ」
S志と私のテンションが、3日目にして歩調を揃えたのであります。
キメッ!
キメッ!
ムキッ!
そりゃっ!(S志撮影)
※あらためて見るとひどくかっこ悪い
「どりんかーっぷッ!!」
前日の練習のおかげか、リズムに乗ってバッチリ動けるように。
慣れると、やたらに疲れなくなるものですねえ。
手足の筋肉もしっかり使った感じがあって、気分がいいです。
これ以来、S志は牛乳を飲むと「どりんかっぷ!」が決めセリフ(ちょっと前は「ん〜このさけがうまい」だった)。そして、
「マサってさ〜、げんたろうににてるとおもう」
げんたろうとは、仮面ライダーフォーゼの主人公「如月弦太朗」。マサの輝きは、S志のなかで、子ども界でもっとも旬のヒーローと肩を並べたのでした。
今、私は決意しています。
「これで、痩せよう!」
S志のテンションが続く限り、明日からも毎日ミルクジムをやることになる。
仮面ライダー並みのテンションであれば、3カ月はもつ。
3カ月続けたら、私の脂肪もちょっとは減るかもしれません。
がんばれマサ! がんばれS志!(他力本願)