わが家のミルティンくんことS志の卒園が、近づいてきました。
うちの園では、保護者が卒園アルバムをつくります。
そこに卒園児の赤ちゃんのころの写真を載せることになったので、このあいだ、アルバムをひっくり返して写真を選ぶことに。
「わ〜小さい〜!」
案の定、時間を忘れて見まくってしまいました。
1枚1枚からまっさきに蘇るのは、楽しかった思い出より、「ああ、大変だったなあ」というできごとだったりします。いや、かわいかったし楽しかった。だけど、だけど。
「子どもが道に転がって『イヤだイヤだ』とだだをこねる図」
っていうやつありますよね。あれ、ずっとマンガのなかのだけのできごとだと思ってました。
でも、今は知ってます。
あれが、リアルをまざまざと描き切ったものだということを。
今日は、そんな思い出を書きたいと思います。
それはS志が1歳になり、入園したての秋でした。
手をつなげば少し歩けるようになって、「まま」って言ってくれただけで感動してたころ。
今の保育園じゃなくて、バスで15分かかる駅前の保育施設に通っていました。
その日は朝から雨ふり。
起きるなり「あーあ……」。「雨の月曜日」には、日本中の園ママたちが「あーあ」とブルーになってると思います。月曜日は、週末に持ち帰ったおひるね用のおふとんとか、1週間分の荷物を持っていかないといけないからです。
バス停から、保育園までは、さらに歩いて5分。
足早に向かっていると、S志が抱っこひものなかで暴れ出した。自分で歩きたいみたい。
保育園までちょっとだし、歩かせてもいいか。
抱っこひもから降ろし、全荷物を右肩で持って、左手で手をつなぎました。
そしてカッパを出して、「S志、これ着てね」と立ち止まったとき。
カチッ。
S志のなかで、なにかが起こった。なにかが……
とつぜん、しゃがみこみました。
えっ。
そのままハイハイで爆走し始めました。
ちょいちょい、待った待った!
道はもちろんびしょびしょです。S志の足はたちまち泥だらけ。
すぐ追いかけるも、1歳児のハイハイは思いのほか速い。つかめそうでつかめない、まるでウナギのようだ(つかんだことないけど)。
傘もささずに追いかけて、
やった!
足をつかんだ!
ホッとした次の展開は、さらに私の想像を超えました。
今度は、路上で大の字になり、
バタフライキックをしながら、風車のように回転しだしたのであります(速っ)。
さらに、大号泣つき。
「わあああああ〜わあああああ〜」
路上ハイハイどころか、ここで、まさかの路上ローリングを目にすることになるとは(しかも我が子)。
抱きあげようとするとさらに回転速度があがる。号泣のボリュームも無限にアップする仕様。ぐずる赤子に死角なし。うむ。
赤ちゃんって、こういうとこ、ホント大変ですよね……。
ぐずぐずスイッチのありかがわからない。
なぐさめたくても、ことばは通じないし。
話せないから、泣いてる理由がわからないし。
そして、
努力や工夫じゃ、なんとかならない。
(ここがわりとホントにきつい)
気が遠くなって一瞬ボケーッとしていると、
「大丈夫かー?」
いつのまにか5〜6人のおっちゃんたちに囲まれていました。わああ。なにこれ。どうしよう。
近所に市場があったのですが、そこのサカナ屋さんや果物屋さんが心配して出てきたのです。
「どうした?」
「子どもが泣いてるんだってよお!」
「あらららら」
「大変だねえ」
「保育園がヤダって?」
私「それがそうでもなくて……」
(ハイハイで向かっていた先は保育園だったため)
「転んだの?」
私「いえ」
「どうしたのかなあ?」
私「どうしたのかなあ……」
「……」
「……」
抱っこもダメ、さわってもダメなヘビー級ギャン泣きのときは、「放っておく」しかないと思う。
①5分くらい放置 ②泣き疲れたころにスキを見て抱っこ ③抱っこであやして泣きやませる、という。うちではそうやって乗り切っていたのですが、ここは外。さらに雨。そしておっちゃん。
とうてい、放っておける状況になし。
とりあえずここは母親として、何か言ったほうがいいかな。私はすっかり方向性を見失ってました。
「S志、保育園いこうよー」
「わあああ」
「S志、ぬれちゃうよー」
「うわあああん」
「S志、抱っこしようか〜」
「わあああん」(ローリング続行)
「……」
うん、1歳児に言ってみても通じるわけないってわかってたけど、言ってみたの。
なんだかもう、泣きたくなってきました。
ふりしきる雨のなか、転がる乳児。たたずむ母親。それを囲む、おっちゃんたち……
このふしぎな絵づらで、S志のローリングは(無情なほど)続きました……
人は気まずさが高じると、突発的なパワーが湧くんじゃないでしょうか。
よく覚えてないのですが(たぶん必死すぎて)
さいごはローリングS志をむりやり抱き上げ、
「保育園までいけば、なんとかなりますんで!」
と(微妙な)言葉を残し、S志を小脇に抱えて猛ダッシュしました。そして、そのまま全力で園にタッチダウンをキメたのでありました。
翌日、腕がすごい筋肉痛になって、電車のつり革持つのがつらかったなー(遠い目)。
当の本人は自分の写真を眺めて
「S志あかちゃんのときかわいいわ〜」
と、にこにこ。くやしい、完ぺきに記憶からない(当たりまえ)。
もうすぐ入園シーズン。それは、入園したての子どもたちが、全国各地で泣く季節。
きっと今年もどこかに、ローリングからのタッチダウンをキメるお母さんがいるのです。たぶん。