前評判通り、猛暑の夏がやってきましたね。
S志も夏バテなのか、週末はまったく食欲がありませんでした。
ばくばく食べてくれたのは、おみそ汁とスイカと牛乳だけ。
水分と栄養が摂れる牛乳は、夏も心強い味方です。
さて、今日はそんな夏を涼しくするアレの話をしたいと思います。
先月のことです。朝ごはんのたまご焼きをつくっていると、S志がキッチンに入ってきました。
「ねえ、えりあちゃんは?」
えりあちゃんなんて子、保育園にいたっけなあ。ちがうクラスの子かなあ。
「誰?」
「えりあちゃんだよ」
「知らないなー」
「あのねえ、すごくおおきいおんなのこだよ」
「ふーん」
「いつも、ママのうしろにいるじゃん」
……。
いや、いない。
S志はふざけているときは呆れるほどミエミエのアホ面になるのです。
でもこのときは、何も変わらないいつもの表情してました。
保育園に送っていったあと、バスに揺られながら、天井に頭がつくほど異常に背の高い女の子が、自分のうしろにいる図を想像しました。
天井のあたりから、私を見下ろすの図。
廊下いっぱいに立って、私のうしろをついてくるの図。
いるわけないけど、いるわけないけど……。ゾッ。
ちょっと周りに聞いてみると、小さい子がそういうふしぎなことを言うのは珍しくないようです。
「誰かいる」と言って、何もないところを指さす、とか。
「ちがう! そうじゃない!」と、おままごとしながら見えない誰かとケンカしていた、とか。
何もない空中を見つめて泣いたり笑ったりする赤ちゃんの様子を見たことがある人も、多いのではないでしょうか。
おなかにいたときの記憶の話をしてくれたり、
1〜2歳の赤ちゃんによくある「場所見知り」(初めての場所や、ある特定の場所に来ると泣いてしまう)というのも考えてみたらふしぎです。
小学生くらいの子になると、そういう話もめっきり減ってくるみたいですね。
乳幼児には、大人にはない感覚があるのかもしれません。
S志のホラー発言ではさらに上がありまして、
レーシングカーが主役の某アニメ映画を家で見ているとき、とつぜん爆発的に泣き出して私に抱きついてきたんです。
それはもう本気でおびえていて、しばらく泣きやまなくて、やっと声を絞り出して
「テレビにこわいものがうつった」
と言うのです。
「どこで映ったの、教えて」とリモコン片手にごくりとのどを鳴らして確かめると、それはネオンで飾った改造車が夜の車道を走っていくシーン。
しかし2度目に見たときは、もうS志はケロッとしておりました。
何が映ったんだろう。
もももももしかして……?
白い女……なんじゃないのか!!
あれはもう7〜8年前でしょうか、
そんなホラービデオを観たことがあったのです。
ある映像を再生すると、
そのテレビには感染するように白い女が映るというストーリー。
S志が観ていたテレビは、まさに私が、そのホラービデオを観たテレビだったのであります。
(いまだに昔懐かしブラウン管のテレビデオ使用であります)
「なにがいたの? 女の人?! 白い服の人ッ?」(こんな質問自体こわい)
とぶるぶるしながら聞いてみたのですが、S志は泣いていて答えませんでした。
けっきょく何だったのかは、わかりません。ゾッ。
さて昨日も保育園にお迎えにいくと、なじみの先生に「S志くん、さっきまでおもちゃばこに向かってずっと何か話してました」と言われました。もう慣れっコですから、あわてたりしませんよー。
「おもちゃばこに何がいたの?」(こんな質問自体こわい)
と帰り道に聞いてみると、
「おばけだよ。」
「どんなの?」
「かわいいの」
と、にこにこしております。
まあ、にこにこできるおばけなら、いいかなあなんて気がしてます。
ただ、私のうしろにいるという「えりあちゃん」のことはさすがに気になっていて、あれ以来、財布を忘れると「えりあちゃんが隠したのではないか」、仕事でポカをやると「えりあちゃんの呪いではないか」、仕事中に眠くなると「この病的な眠気はまさかえりあちゃんの……」と思ってしまうのですが。
お岩さんや番町皿屋敷のお菊さん、クーラーも扇風機もない昔から怪談は、ゾッとする寒気で日本の夏を冷やしてきました。
節電のこの夏、こどものふしぎ発言をかみしめて、冷えてみるのもいいかもしれませんね。