その日、うちでいちばん早起きのわが家のミルティンくんことS志が、なかなか起きてこなかった。
「S志、そろそろ起きて〜!」
大声でゆさゆさすると、やっとふとんから出てきたのですが……。
廊下をとことこ歩いてきたS志を見て、
私はギョッとなりました。
なんかおかしい……
S志が……
S志の顔が……
なんか濃くなってるー!
えっなにこれ?
私の知っているS志は、私と夫ににて、とっても薄いつくりの顔だったはず。
そう、野菜でいえばモヤシ、肉でいえばササミ、元素でいえばチッ素のごときパーツの薄さ。友だちや姉などにも、
「S志って、ホント昭和顔だよね〜」
「ゆでたまごにゴマがついたみたいな」
などと言われてきた、
↓にがおえメーカーでつくったこの顔がホントに似てた、
あのS志が!
※通常からのイメージ比でビジュアル化しております
ヒー!
落ち着いて、しげしげ眺めて、理由がわかりました。
ななんと。S志のゴマだった目が、
二重になっていたのです!!
ひええ〜
一重まぶただった子どもが、ある朝とつぜん二重に!
という現象は、わりとよく聞く話です。
日本人は生まれたときから二重という子は少なく、年々、二重が出てくる子が多いとか。二重というのはまぶたの筋肉のくせみたいなものらしいですね。成長とともにまぶたの脂肪が減ったり、何かのはずみでくせがついたりして、出てくることもあるらしい。
しかしまさかS志がねえ。
とても信じがたくて、何度もこすってみたり、のばしてみたりしてみました。
消えない。
とつぜんの息子のメタモルフォーゼについていけぬまま、とりあえず朝ごはんの準備。お湯を沸かしながら、スーハー深呼吸してみる。
そういえば、くっきり二重って、憧れだったな(自分は一重に近い奥二重)。
中学生ぐらいのころなんか、「二重だったら、どんな毎日かな〜」「超カワイくなって、困っちゃうカモ☆」(なわけない)とか妄想しておりましたね。名前も「もみじ」とか「あかね」になりたかったころね。そうだ、べつに困ったことじゃないじゃん。S志もあっち側(?)の人間になったんだよ……。
ちょっと落ちついてきたところ、S志が
「ねえ〜もうおなかがすいたんだけど〜」
とキッチンに入ってきました。
「ちょっと待って、今やってるから」
と振り向いた瞬間、またギョッっとなってしまいました。
誰………!!!!
だ、だめだっ。今までの脳内イメージが、現在のビジュアルについていけない!
そして、私の目にはS志がどうしても、こんなふうに見えてしまいました。
そう、それはギャグマンガでよく使われる手法、「いきなり劇画タッチ」。
あんなふうに、S志が、いきなり劇画タッチになっちゃったみたいに見えてしまう。私の脳が、この想定外の出来事を処理するために選んだのは、のりまきセンベエさんフレームだったのであった。
というか、目だけで、ここまで変わるものか。しかし、思ってたようなイケメン化とは、なんか違うけど。
パンを食べ始めても。
「S志、ぶどうの入ってるパンすき〜。たからさがしみたい〜」
牛乳を飲み終わっても。
「みて〜! ヒゲがハナまでいったあ〜!」
「S志、パンツ後ろ前反対だよ!」
「ええ〜ほんとだあ〜」
……
もうホント、なにやってもマンガに見える。
朝ごはんを食べながら、必死で笑いをこらえました。6歳児はけっこう傷つきやすいのです。さいきん、「外では、はずかしいから」と言って人前では手をつないでくれなくなったS志(しくしく)。笑ってるのがバレたら涙目で怒りそうだし。
待てよ。そういえば、明日は保育園の生活発表会です!
今年は保育園さいごの発表会だから、S志たち年長さんは、大ハリキリ。お母さんたちも「もう、さいごは号泣しそうだよね」と話していたところ。
どうしよう。私、太鼓をたたきながら劇画シリアスなS志を見て、笑わない自信がありません。
ほかのママ友さんたちが、S志のとつぜんの劇画タッチに平静を保ってくれるのかも不安。感動の舞台はどうなってしまうのか。(ホント、劇画タッチを前にすると思いのほかすごい衝撃なんですよう)
じわじわと青ざめてきました。
……
いや、考えてても仕方ないよね。もうS志はこの顔で生きていくんだから。まずは一日目をがんばろう。私は、顔を洗って気を取り直してから、リビングに向かいました。
「S志、そろそろ保育園行こう!」
「は〜い!」
……
あらっ。
まぶたをゴシゴシ。びよーん。
あららっ。いつものS志に、戻っていたのでした!
やっぱり二重は、一時的なものだったか。
朝の衝撃から20分。
……短い夢だったなーー!
(でもすごーく、ホッとしました)