土曜日は、1週間ぶりに家族3人で晩ごはんでした。
夫は平日帰宅が遅いので、わが家のミルティンくんことS志がパパと顔を合わせるのはほぼ週末だけです。
S志が牛乳のおかわりを注いでいると、夫がしみじみ口を開きました。
「S志はよく牛乳飲むなあ〜
パパも昔は、1日に2パック飲んだもんだったなあ」
……
えっ。
1日に1000mlパック2本、つまり2000ml。週末しか会えない息子に父の威厳見せたいのはわかるけど、それはさすがに盛りすぎだわー。
「いや、本当だって。中学のとき、ヤスと1日2パック飲んで毎日腹筋してたもん」
ヤスっていうのは、夫の年子の弟です。
そして「人間は鼻○そを食べ続ければ生きていける」説をとなえ、夏休みの一研究にしようとしたというチャレンジャーなのです。そのヤスとタッグを組んだということはこれ、なんか(へんな)動機があるぞ。
「映画の『レオン』だよ。レオンが、1日2パック牛乳飲んで、毎日腹筋するんだよ。だから、2人で『強い男になるには牛乳と腹筋なんだ』と思ったわけよ」
夫が言うには、当時その話が「少年ジャンプ」に書かれたのをきっかけに男子の間で「レオン発・牛乳腹筋ブーム」が起こり、牛乳2パック飲んでたのは夫とヤスだけではなかったという。本当か。ジャンプを信じていいのか。その夜ちょうどTSUTA●Aに出かけたので、S志が眠ったあと、DVDを観てみることにしました。
『レオン』(1994年公開)といえば、「12才の女の子に愛された殺し屋、レオン」というキャッチコピーを覚えている方も多いのではないでしょうか。ジャン・レノ演じる凄腕の殺し屋レオンと、当時13才だったナタリー・ポートマン演じる少女マチルダの絆が胸を打つ物語です。私も大学のとき見て泣きました。
再生すると、のっけからマフィアのからの依頼を遂行するレオンのアクションシーン。そうそう、姿を相手に見せずに討ち取るのがカッコ良かったっけ。
そして仕事を終えたレオンが帰宅。部屋は意外と生活感あり。こじんまりしたキッチン。無言で冷蔵庫を開けて……
お?
飲んでる!
夫とヤスは正しかった。
物語が進むにつれ、確かに1日2パック飲んでいることがわかりました!
さらに、腹筋もしてました!!
レオンは修道士のようにシンプルに規則正しく暮らしています。スーパーで牛乳を買って、家で牛乳を飲み、体を鍛え、洋服にアイロンをかけ、かわいがっている観葉植物の世話をして、夜になると、銃を片手に椅子で眠る。そこに突然現れたのが、家族を失った少女マチルダなんですねえ。
そこらへんのロマンスは置いといて、今回は牛乳ですよ。注目していると、彼には独自のミルクお作法があることがわかってきました。
①牛乳は買いだめしない(こまめに購入)……面倒くささより新鮮さ重視。
②銘柄は「Farmland」(ファームランド?)一択……こだわりが男らしい。調べてみると、アメリカに実在するメーカーのようです(1914年にニュージャージーで創業)。
③コップで飲む……ワイルドなパック直飲みではなく、スタンダードにコップ派。紙の味が混じらず、衛生面も安心。
④吸いこむように飲む……ノドにブラックホールでもあるのかと思うほど飲むのが早い! コップの傾け加減も絶妙で、一気飲みでも「白ヒゲ」知らず。いつでもシャープさを忘れないのがレオン流。
⑤飲んだら腹筋……栄養をさっそく筋力増強へ回してる。たぶん。
そして中盤にさしかかったころ、私は確信しました。
(牛乳的な)ひいき目なしで、この映画の牛乳出没ぶりおかしい。
家のなかのシーンにはたいてい出没。しかも、いいポイントで顔出すんです。
マチルダが持ってる紙袋の中身も牛乳。マチルダが「恋しちゃったみたい」と告白するシーンでは、レオンの口から盛大に吹かれてたり。2人が乾杯するのも、牛乳のコップ。
2人の人生を決定づける名シーンでは名演技を見せます。ええ。牛乳パックが。
レオンを見つめ、牛乳をコップに注ぐマチルダ。やがて、そのテーブルの上には、2万ドルと、一丁の銃が。「私がほしいのは愛か死よ」と言って、マチルダは自分の頭に銃を突きつけます。
そして銃声。
その瞬間、画面に牛乳がイン。
2人をつなぐように立ち、カメラに向けたその背中(というかパック裏面)から、ふしぎな哀愁をかもすのです。小道具にしては目立ちすぎ。もはや名脇役レベル。
レオンの名脇役といえば観葉植物の鉢植えもあって、これは2人の孤独と希望を感じさせるキーアイテムになっているんですよね。
牛乳にも、何か意味があるのかも?
映画ファンの間でも諸説あるようで、「クールな一方、大人になれないレオンの少年性を象徴している」説、「体臭を消すために、食事のかわりに牛乳を飲んでいる」説、「体づくりにたんぱく質補給」説、「ただ好きだから」説などなど。
ちなみにインターネットで検索すると、夫と同じく「レオン観ると牛乳が飲みたくなる」っていう人がけっこう多い! へえー。
『レオン』は、アクション映画にも関わらずリアルでやさしい空気が流れてて、そのギャップがいいんですよね。これは、牛乳の平和なたたずまいがすごく大きな役割を果たしてる気がします!
見終わると(今回も泣けた〜)、
むしょうにレオンのあの吸いこむ飲み方がやりたくなりました。やってみたら思い切り気管に入りましたけども。