ミルティンくんの夏の終わり
このところ、朝・晩はずいぶん涼しくなりましたね。
網戸から通る涼しい風に当たっていると、扇風機の前であづいあづい言ってたころが早くも懐かしく思えます。
お天気ニュースで「夏の暑さも今週まででしょう」なんて言葉が出る日も近いのかな。なんだか寂しい。げんきんだけど。
夏の終わりを感じるのって、どんなときでしょうか。
まわりに聞いてみますと、
「セミ爆弾。お盆過ぎたあたりから鳴き声が『ジージー……ジジッ』って途切れがちになって、そのうち路上にセミが落ちてることが多くなるよね。で、死んでると思って通り過ぎようとすると突然、断末魔の叫びをあげながら爆走してくる。おそろしい。セミ爆弾を警戒するようになると、夏も終わりだなって思う」
(30代・会社員Nさん)
「日が短くなって、夜が早くくるようになったときですかね。仕事とかが終わって外に出たとき『うわ、こんなに暗くなってる』ってビックリしたあと、季節のかわり目を感じます」
(20代・デザイナーAさん)
「石川出身なんですけど、子どものころは毎日のように海水浴してて、クラゲに刺されたときに夏の終わりを感じたかなあ。『あ、クラゲ出てきたから海もそろそろ終わりかな〜』『もう秋なんだな〜』と」
(30代・デザイナーTさん)
「季節とか……感じたことないなあ……」(超多忙)
(30代・デザイナーSさん)
「セミが落ちてるとき」は他の人も挙げてて、ここに夏の終わりを感じる人って多いんですね。先日、このセミ爆弾現象を「セミファイナル」と名付けよう、というのをインターネットで見かけました。なんてぴったりなネーミング(膝ポン)! 私はセミファイナルより、セミフォール(木から無軌道に落下してくる)のがおそろしいですが。
私の場合は昔から甲子園が好きで、この決勝の日です。表彰式がはじまり、高野連会長の講評を麦茶片手にながら見しているうちにジワジワくる。大会旗が降ろされると、「あ、夏が終わった」とずしんときます。
でも今年は忙しくて、甲子園ほとんど見られてません。大阪桐蔭・浪速のダルビッシュこと藤浪選手が、強打の光星学院を2安打完封しての春夏連覇の瞬間も見られず。夏の終わり、まるで感じず。
そんなまま、先週、ちょっと遅い夏休みに突入したのでした。
ちなみに、わが家のミルティンくんことS志の保育園では、7月末くらいから夏休みに入る子がだんだん増えます。ひとりまたひとりと旅立ち、お盆休みにはいつもは20人いるクラスメイトが、S志含め6人になったことも。
※保育園児の夏休みは、時期も期間も、お家からの自己申告制です。
最愛のY美ちゃんがシンガポールに旅立ってしまったあとは、
「S志、シンガポールいきたいな〜。ひこうきで、Y美ちゃんにあっちゃったりして! えへ! ママ、あと何回ねたらいく?」
うん、みんな行っちゃってさみしいよね(でもシンガポール無理)。
そしてシンガポールとはまったく別路線の国内N県、M子の実家へ。
親せきと集まって山のコテージに泊まり、カヤック、川遊び、バーベキューに花火。そのあとは実家で、畑に行ったり虫を捕ったり、近所の子たちとまたまた花火、自転車遊びになわとび、朝から晩まで遊びまわってました。
「ばいばーい!」
5日間はあっという間でした。
パパは仕事で先に帰っていたので、帰りは私とS志の2人で電車。
座席に座ると、「リュックはここにおいて、ぼうしは、ここ」。荷物ポジションを決めて、オヤツは窓ぎわにセット。なんだか修学旅行みたいで楽しそう。
もっと小さかったころは、2人だけで電車に乗ったらいつぐずるか、いつトイレかのロシアンルーレットだったのに。子どもが成長するって、なんてラクちんなのかしらー。
私はすっかり、S志に安心していました。
とっぷり日が暮れたころ、ようやく地元の駅に到着。
バス停に向かおうとすると、
「コンビニに、やすいフォーゼのスイッチがあるの」
スイッチとは、「仮面ライダーフォーゼ」の必殺ツールです。パパと駅に来ると、帰りにいつも買ってもらっているらしい。
「S志は今日がんばったから、買いにいこうか」
10分ほど歩いて、コンビニでフォーゼのスイッチを買いました。
夜の駅前通りを手をつないでてくてく戻っていると、S志がいきなり立ち止まった。うつむいて黙ったまま。
「あれっどしたの?」
「……」
「早くお家に帰ろ」
「…………バーバちゃんにあいたい」
「えっ」
「S志もういちどバーバちゃんとあそびたいの……」
「また今度こっちに来てくれるって言ってたよ」
「こんどじゃやだの」
ひっく、ひっく、泣き出しました。
午前中にバーバちゃん(おばあちゃん)の畑でいっぱい遊んで泥がついたTシャツに、涙がぽたぽた。
私は、あまりに急な号泣で、どうなぐさめてよいやらオロオロ。
「じゃあ、お家帰ったらバーバちゃんに電話してみようよ」というと、ようやくちょっとずつ歩き出して、でもバスの中でも、ずっとひっく、ひっくしていました。
大人は、楽しいことがいつか終わるという心の準備ができるけど、小さい子はそんなことしないんですね、たぶん。みんなに「ばいばーい」って言うときも楽しくて、しばらく会えなくなるなんて思わない。
そういえば私も小さいころ、夏の家族キャンプから帰る車のなかでうたた寝して、車が家の前に着いた音で起きる瞬間がものすごく寂しかったっけ。まさに夢から覚めた感じで。
バスに揺られつつ、となりでひっく、ひっくしているS志の麦わらぼうしを見ながら、私はしみじみ「S志の夏が終わったんだな」って思いました。私の夏も、終わりだなあ。
それにしても、春や冬より、
夏の終わるのがこんなに寂しいのって、どうしてなんだろな。