ミルティンくんの「ぼく」記念日
自分のことを、
「ぼく」「わたし」って言うようになったの、
いつ頃からでしょうか。
私の場合、おぼろげな記憶をたどると、
保育園にあがる前は、自分のこと「Mちゃん」って名前で言っていました。
小学校低学年ころもまだ「Mちゃん」。
そこからなぜか「ぼく」を経て(女の子の間で「ぼく」呼びが流行っていた)、
中学生には「わたし」で安定しました。
いや、たまに「俺」もあったか(反抗期)。
まわりの子を見ると、みんな赤ちゃん〜幼児期は自分を「○○(ちゃん)」て言っています。
きっと、お父さんやお母さんがそういうふうに自分を呼ぶのを、最初はそのまま使うんですね。
もちろん、わが家のミルティンくんことS志も、そのひとりです。
おととい、いつものように、
「おやすみー」とおふとんに一緒に入ると、
S志が「あのさー」と話し始めました。
寝る前にはいつもひとしきり(大変どうでもいいことを)おしゃべりするのです。。
「K太くんは、ふつう。A人くんも、ふつうなの」
「なにが普通なの?」
「おおきさ」
「へえ。大きさ……」
「うん。ちいさいのは、ゼロにん」
「へえ。大きい子は何人いるの?」
「8にん」
「だれ?」
「それは、な・い・しょ」
「……」
「ぼくは、おおきいの」
「……」
「……」(どや顔)
「あれっ、S志、いま自分のこと『ぼく』って言った?」
「えへへ」
おお!
S志も、ついに「ぼく」を使い出したんだあ。
「いつ『ぼく』って言うかな」と何度か思ったことがあったので、ちょっと感動しました。
よし、6歳の12月5日が、S志の「ぼく記念日」と。メモメモ。
大きくなったら、教えてあげよう。
「はじめて○○した日」って本人は忘れてしまうから、メモっとくとあとで意外と楽しいんじゃないかと思うのです。
ちなみに、「はじめて牛乳を飲んだ日」もメモってあります〜えらい。この話はまたいずれ書きたいです。
話をおふとんの中のS志に戻しまして。
「あのね、S志……あっじゃなくて、ぼく、ぼくっていうことにしたの、きょうから」
(↑まだ「ぼく」の地盤が定まっていない)
鼻の穴のデカさが3割増しです。軽く目が泳いでます。
照れかくしなのか、まくらに頭頂部をバフバフぶつけ始めました。
社会人になって初めて取った電話で、「お世話になっております」を口から発したときの気持ちを思い出しました。「わあ、私が言ってる!」って思ったなあ。肩に力が入ってしまうし、気恥ずかしくて。うん、照れるの、わかるなあ。
幼児が「ぼく(わたし)」の向こう側にいくのも、「エイヤッ」って感じなんでしょうね。
大人の階段を、一歩のぼる感じなんだな。
納得したところで、もうそろそろ寝てほしい。
「じゃ、明日保育園でみんなに言ってみなね」とまとめようとしたのですが、S志はこれで終わりませんでした。
目をらんらんとさせて、にこにこと近づいてきた。
そして、ひとり語りが始まったのでした。
「あのね、『おれ』はね、いわないの。
どうしていわないかっていうと、
『おれ』って、『オレオ』なの!
だから、『おれ』っていうと、たべられちゃうよ」
私が「ああなるほどですね……」としか言えないでいると、S志はさらににじり寄ってきました。まるで、「これからとっておきの内緒話をします」と言わんばかりです。
「『わたし』と『わたくし』も、いっちゃだめなの」
「うん、男だもんね。ママは言っていいよね」
「だめ」
「えっ」
「『わたし』は、ふわふわの、手でもつ、ひとくちでたべられるわたあめ」
「……」
「『わたくし』は、よくみかける、くしつきわたあめ」
「……」
「だ・か・ら……たべられちゃうっ」(ヒソヒソ声)
ギャグかと思ったのですが、S志はまじめな顔で天井を見つめています。
そして続けたのは、意外な事実。
「『S志』っていうのも、
なまえに、『うし』がはいっているでしょ(そうなんです)。
うしって、ぎゅうにゅうとかもしぼってくれるけどさ、
うしはね、ぎゅうにくがあるから。にく…(言いよどんでる)だから、たべられちゃうのもあるの。
だから、『ぼく』っていうことにしたの!」
S志にとって、「ぼく」は大人の階段をのぼることではなかった。生存本能だった。
とでも、言うのだろうか……
そのままS志はすーこーすーこー寝てしまったので真実は闇のなかです。
さて本日12月7日現在、ふつうに「S志さー」と言っています。おい。「ぼく」はどこへいった。
ミルティンくんのほんとうの「ぼく記念日」は、もうちょっと先みたい、です……!