ミルティンの牙は朝光る
昨日の朝のこと。
目覚ましが鳴ってもなかなか頭が起きず、
毛布にくるまってぐずぐずしていました。
すると、誰かが、
「トフ…トフ……」
と廊下を歩いてくる音が聞こえました。
来た、と思いつつも目を開けずに粘っていると、
「ズッ ズッ……」
と得体の知れないものがベッドにずり上がってくる。
そして、
「プシューッ プシューッ」
と、耳もとに吹きかけられる不気味な吐息(鼻づまり気味)。
それでも粘っていると、
パジャマからハミ出ていた私のおなかを、誰かの手がつかんだのです。
そして、くぐもった笑いとともにささやく声。
「しぼう……」
ギャー!
思わず目を開けると、
わが家のミルティンくんことS志が、
ほほ笑みながら私の腹肉をつかんでいるではないですか。
「しぼうがあるよ……
S志が、とってあげるからね……」
と言って、雑誌○冊分の脂肪をグイグイ引っ張り、
「とれない! ママ、とれないよ!」
純粋すぎる努力の前に、「や、やめろお!」という魂の叫びがのどに詰まる。
そのあと、「こうしたらとれるからね」と言って、一生懸命に脂肪をもみ出すS志を見て(脂肪燃焼のしくみなど知らないはずなのに)、
「そうか、脂肪を見るともみたくなるのは人間の本能的な行為なのだな」
とどうでもいい発見をしながら、やっと体を起こしたのでした。
恥ずかしながら、うちでは私がもっとも遅く起きます。
S志は、早起きな夫と一緒に起きるので、
寝坊な私を起こすのが、
近ごろ、彼の朝の習慣となっているのです。
最初のうちは、
「ねえ、ママ起きてよ」
という、ふつうのセリフでした。
しかしそんなのではとうてい起きない母親を前に、次第に彼は工夫を重ねるようになったのですね。
そんなS志の目覚まし戦歴をちょっとまとめてみました。
私のようなしつこい寝坊と同居の方の戦力に(0.01%くらい)なれば幸いです。
攻撃力は、1回発してから私がまぶたを開けるまでの速さを
基準にしております。
S志の目覚ましアタック
▼攻撃力:子ネズミレベル
「ママー、S志もうおきたよ。
ちびくまちゃんもおきたよ。
まくちゃん(まくら)もおきたんだよ!」
【睡魔パワーゲージ】
■■■■■■■■■■■■□
▼攻撃力:ネコちゃんレベル
「ママー、おなかすいたよー」
【睡魔パワーゲージ】
■■■■■■■■■□□□□
「ママがすきすぎるの!
ママかわいい!
ママといっしょにいたいの!」
【睡魔パワーゲージ】
■■■■■■■■■■■□□
※「だから一緒に起きて」というつもりだったが
「じゃ一緒に寝よ!」と言われ、つい一緒に二度寝してしまった
睡魔とは恐ろしいものですね。睡魔ってのはね。
かわいさだけでは起こせないことを悟ったのか、ある朝S志は、いきなりひと皮むけました。
▼攻撃力:百獣の王レベル
「ねえ、どうしてそんなに起きるのがおそいの?
そんなんじゃ、てつぼうもできないよ。
ママ、ぜんぜんがんばってないよ」
【睡魔パワーゲージ】
■■□□□□□□□□□□□
※睡魔とともに親の立場を粉砕
「おとながずっとねてちゃ、いけないんだよ。
おとながそういうことしちゃいけないんだよ。
あたらしいおとなに、しかられちゃうんだよ」
【睡魔パワーゲージ】
■□□□□□□□□□□□□ danger!
※睡魔とともに大人のプライドを粉砕
「そんなにねてたら、もっとふとっちゃうよ。
もっと、ふとくなっちゃうよ。
にんげんは、こころのなかでおおきくなっているからね」
【睡魔パワーゲージ】
□□□□□□□□□□□□□ gameover!
※睡魔とともに三十路乙女の夢消ゆ
うう。幼児がいきなり核心をついてくるよ。
そういえば、先日パーマをかけたときには、
保育園のおともだちが「S志のママ、かみのけがカツオぶし」と的確に指摘してきましたし(お好み焼きの上で踊るカツオぶしに激似)。
野生のジャガーは獲物の急所を見きわめて一撃でかみ砕くといいますが、幼児の一撃必殺ぶりも、そういう本能的な何かなんじゃないかと思える今日このごろ。
でも急所をザックリやられて起こされるとですね、
ふしぎな爽快感がありますよ。
「いっそ、アッパレ」っていう感じが。
起きたあとはS志と牛乳で朝の乾杯をして1日が始まります。
さすがに最近、起きないことにイラッときてるみたいなので、
この乾杯でごきげんを取っております。
しかし、次の朝はどう起こしにくるか気になって、
早起きへのモチベーションはますます上がらないのでした。ハイ言い訳。