ミルティンくんのあぶない視線
先週末は大変な台風でしたね。
私たちの町でも突然大雨が降り、お出かけしづらい日が続きました。
わが家のミルティンくんことS志は、家のなかではたいてい、
レスキュー車やはしご車のミニカーを並べて「レスキューごっこ」をしています。
この週末は、崩壊した建物(つみ木)からケガ人(トランプの絵札などを使用)を救出したり、火事(なぜか私のスネの虫さされ跡)をはしご車で消火したりしていました。
そういえば、
S志が初めてまともにしゃべった名詞は「きゅうきゅうしゃ」でした。
男の子って、「でんしゃ派」と「くるま派」に分かれるとよく言われますが、
S志はくるま派。なかでも、だんぜん緊急車両派。
(※くるま派内には工事車両派・国産車派など細かな派閥が存在する)
その情熱の深さを見ていると、
「この子、古墳時代とかに生まれたら何を生きがいにしてたんだろう」
とどうでもいい心配をしてしまうほどです。
牛? 馬? ハニワ……?
それはさておき、
先週こんなことがありました。
保育園からの帰り道。
自宅と園を結ぶ道に、ひとつだけ横断歩道があります。
信号のない交差点なので、車が停まってくれるのを待っていると、
S志が、私の手をぎゅっと握ってきて、言いました。
「ママをまもってあげるからね」
幼児のいきなりのなぞ発言には毎度驚かされますが、
こういうセリフはどんなタイミングでも嬉しいものです。
「そうか。ありがとうね」
と答えると、S志はこくっと頷いて、
「くるまがきて、ママがどーんってぶつかったときには、
S志がきゅうきゅうしゃのってあげるからね。
だから、どーんってぶつかっても、だいじょうぶだからね」
そうか、大好きな救急車で守ってくれるのね。
親バカゲージ急上昇でヘラヘラしていると、
S志は、行き過ぎる車をジッと見つめながら言いました。
「S志、きゅうきゅうしゃのるからね。
ママがどーんってぶつかったらね」
「うんうん」
なんか、やけに目がキラキラしてきたな。
「ママがどーんてぶつかったら、
きゅうきゅうしゃのるね」(笑み)
「……」
「きゅうきゅうしゃのる」(満面の笑み)
私の頭に、あるひとつの疑念が浮かびました。
「要は、救急車を呼びたいだけなんじゃないか」
考えてみたら、救急車を呼ぶためには、誰かが事故にあわないといけないよな。
もしかして、
私……??
脳裏に、ナニモノかに背中を押されて車道に飛び出す自分の姿が浮かびました。
赤いランプに照らされて、救急車に乗せられる私。
S志は、ほんものの救急車やレスキュー隊員をキラキラした目で見つめています。
彼の黒ゴマのような目のなかで妖しく燃えさかっているのは、
救急車へのけがれなき情熱。
まてまてまてまて!
それから帰りの道すがらずっと、
「救急車に乗りたくても、車にぶつかってはいけない」
「車にぶつかるとめっちゃ痛い」
「そもそもママは、絶対絶対絶対ぶつかりたくない」
以上のことを、事故のこわい描写をちりばめながら必死に言い聞かせました。
もちろん、念のためですけどね!
家につく前にちらっと見たS志が、
どこかがっかりした顔だったのが、ちょっと気がかりではあります。