ミルティンママの保身と懺悔
はあ。
はあーあ。
いま、私は落ちこんでいます。
今朝、寝坊をしてしまいました。
まあそれだけならよくあることですが、今日はちょっと事情が違う。
今日は保育参観でした。
といっても参観は2日間あって、私が参加するのは明日の予定。
でも第1日目の今日は朝から野外保育の予定で、いつもより5分早く登園しなくてはいけなかったのです。
「S志、起きて! 今日は早く行かなきゃいけなかった!」
幼児との朝は、ご機嫌によってタイムスケジュールが変わります。
祈る思いでS志のようすを伺うと、起き抜け早々、ウルトラマンポーズを取っている。
よし、ご機嫌レベルは5段階中5と考えていい。いける。
バタバタと朝ごはんを出し、洗顔をし、園グッズをバッグに詰め込む。S志はいつもぐずりがちな着替えと朝ごはんもサッサと済ませ、毎朝欠かさない牛乳のおかわりを一気に飲むと、
「ママ、けいたいでんわは、もったのっ」
「うん、持ったよ!」
「れんらくちょう!」
「あっ、ない!」
あぶない。S志のおかげで、連絡帳を忘れずに済みました。
「よしっ、ママ、いこう!」
今朝は出来杉君(「ドラえもん」参照)の魂でも宿ったのでしょうか。
私たちは「保育園に間に合う」という目標に向かって、リ●ビタンDの熱血CMばりの連携プレーを発揮し出しました。
そう。ここまでは、良かったのです。
息せき切ってマンションを出たところで、重大なことに気づきました。
かばんがやけに軽い。
財布忘れたわ……
「ごめんママ財布忘れちゃった!」
「えっ」
S志が心配そうに私を見上げました。
あとでもう一度取りにくればいいか。前へ進みかけたものの、振り向けば、自宅のドアはすぐそこ。
「ごめん、やっぱり財布取ってくる」
猛烈ダッシュで財布を取り、汗だくで戻った私に「まだだいじょうぶだよママ!」。それは、戦友を励ます目でした。
私はうなずき、2人で駆け出しました。S志はお気に入りのマリオカートごっこを始めました。
「S志おほしさまとった! ちゃらんちゃらん」
「ちゃらんちゃらん!」
先ほどの連携プレーの余韻か、レースはいつになく白熱。スピードアップの音を口ずさみながら保育園のある曲がり角にさしかかったそのとき。園庭からK先生の大声が響きわたったのであります。
「S志!!! みんな待ってるよ!」
マリオカートごっこは吹っ飛びました。
園庭では、クラスのみんなが整列してこっちをガン見。
保育参観に来たお父さんお母さんたちもずらりとガン見。
し、しまった時間過ぎてた! 最後のひとりだ!
髪をふりみだして園へ駆け込む。はあはあ。あれっ、S志がこない。
「いけないもん」
えっ。
「なみだでちゃったから、いけないもん」
見れば両目に涙がじわり。
S志は超のつく慎重派である一方、ミスしたときのダメージにすこぶる弱いのでした。たぶん、みんなの前で先生に怒られたのが猛烈にショックだったのです。
そこへ、K先生が駆け寄ってきました。
「朝から泣かないの! ホラ元気出して!」
S志の手を取って、(行っていいよ)というように私に目配せしました。
あっ。
もしかして先生、遅刻したのは、S志がぐずったからだと思ってるのかな??
保育園では、「グズグズする子に足止めをくらうお母さん」というのはもはや日常風景です。
S志もたまに朝ぐずりますし、泣いている場面だけみたら、今回もそのパターンにピタリなわけです。
先生に連れられていくS志を見送っていると、「おつかれさまー」「うちも今朝ぎりぎりだったよー」と、まわりのママたちからも、同情に満ちたコメントが投げかけられました。
……
よしこの流れに乗っかろう。私は瞬時にそう判断し、もうほんと困っちゃったわ~みたいな感じの笑顔を浮かべてママたちに手を振りました。そして、いかにも仕事へ急いでる風味で、園をあとにしたのでございます。
しかしバス停で紅葉を眺めていたら(バスが来るまでめっちゃ時間ある)、さっきまで私を励ましてくれていたS志の、戦友のような目が蘇ってきました。
ほんとは、違うのに……。
真実は「グズグズするお母さんに足止めをくらう子ども」というまさかの逆パターンなのに。
寝坊し、財布を忘れ、S志ぜんぜん悪くない。
オナラしたときS志のせいにするダンナのこと、もう怒れない。
私は「お母さん」という立場を利用してしまいました。
S志のほうががんばってたのに、ごめん。
帰ったら、まずあやまろう。
そして明日から、早起きしよう。
たぶん。