ミルティンくんのいじっぱり算数
夜8時15分、おふろ場。
トラブル勃発。
わが家のミルティンくんことS志は、入浴剤が大好き。あの発泡タイプのやつです。
子どもにとってはあれってエンターテインメントですよ。「ドボン!」と入れる音、シュワシュワ泡、ピンクやグリーンのお湯、ぜんぶ楽しい。
わが家の洗面所には専用かごがあって、いろんな香りの入浴剤(主に「○ブ」)を眺めながら「きょうはどれかなー」と悩むのがS志のささやかな幸せなのです。
しかし、おふろ前のS志のトイレがやたら長かったので、
つい勝手に選んで入れてしまったのでした。
「あーー…!」(涙目)
あわてて「ごめんね」と謝ったのですが、体と髪を洗い終えたあともS志はぶーたれています。
洗面器かぶって「プリン」とちゃらけてみても真顔。
おそるべし○ブの恨み……。
「ママ、もうごめんねって言ったよ」
「……」
「ごめんねって言ったら、許してあげようよ」
「……」
「保育園でもK先生そう言ってるでしょ(他力本願)」
一生懸命言ってみると、
S志は湯ぶねに仁王立ちになって言いました。
「じゃあ、ごめんねって、3かいいって」
むっ。上から目線が気になるが、仕方ない。
「ごめんねごめんねごめんね」
「あーー! 4かいいっちゃったじゃん!」
数え間違えたのか。
幼児はこれだから困ります。
「もう1回言うから、よく聞いてよ。
ごめんね、ごめんね、ごめんね」
「もーー! 7かいになっちゃったじゃん!」
ハテ何をおっしゃいますやら。
恨みで我を忘れてしまったの?
しばし薄目でS志を眺めていましたが、ハッとあることに気づきました。
いちばん最初の「ごめんね」を1と数えると……
「ごめんね」+「ごめんねごめんねごめんね」
=1+3
=4回
「ごめんね」4回+「ごめんねごめんねごめんね」
=4+3
=7回
一連の発言を照らし合わせてみると、
計算、合ってる!
S志は数は数えられるけど、算数は教えてないはず。
保育園でも、やってるなんて話聞かないし。どうして足し算できたんだろう。
天才チンパンジーを見るような視線を送っていると、
「ママはおとななのに、どうしてまちがえるの」(薄目)
……
なんか納得できない。
そして、夜9時。
歯をみがいて、寝る前の絵本も読んだとこで、
再びトラブル勃発。
「S志、寝る前にトイレ行っといで」
「いった」
「行ってないじゃん」
「いったもん」
「いつ行ったの」
「さっきの、さっきのさっきのさっきのさっきいったもん」
……
さっきの(絵本)
さっきの(歯みがき)
さっきの(ふろあがりの1杯)
さっきの(おふろ)
さっき。
「だいぶ前じゃん。今行っといで!」
しぶしぶトイレに向かうS志を見送りながら、
小学校のころの記憶がフラッシュバックしていました。
「私のほうがぜったい上手だもん」
「私のほうがぜったいぜったい上手だもん」
「私のほうがぜったいぜったいぜったい……」
(↑ライバルだったA子)
そうだ、私も子どものころ、
相手を言い負かしたくて、よく数字出してた。
A子のほうが友だち何人多いとか、A子より何日誕生日が早いとか(A子元気?)。
算数を実生活で使いこなした最初って、意地のはり合いだったかも。
5歳児S志が教えてもない足し算ができたのも、意地の力なんだ。
そういえば、
古代インカ帝国が文字を持たないのに栄えたのは、「数えて記録する」ことをはじめたからだと聞いたことがあります。インカでは「キープ」といって、ヒモに結び目をつくって数を記録してたそうです。王さまが人口や納税額を把握して、もらえるものをしっかりもらうために使われたとか。
もしかして、
インカ人が数を数えはじめたきっかけも、
だれかを負かすためだったのかもしれないなあ。
コンドルの空に思いを馳せていたら、S志がトイレから出てきました。
「ママ、さっきのなかなおり、しようよ」
「(まだひっぱってたのか)…うん、ごめんね」
「いいよ」
ふう。
無事、○ブの恨みはプラスマイナス、ゼロになりました。